ブラックコーヒー

「彼は昔からチャラチャラしてたし、わたしと付き合ったのも成り行きだったし、しかたないかな。なんだかんだでダラダラ続いて、就職のタイミングで結婚して。好きか嫌いかって聞かれると、そりゃあ好きだよ。多分向こうも。でもそれが、付き合ってる時のソレかと聞かれるとね、正直頷けない。それが結婚ってものだと思ってるし、不満はひとつもない。だけど、それでも、他の子にソレを求めるのは違うと思うんだよね。」


絵里さんは、2杯目のコーヒーを飲み干した。

「あなたを責めるつもりはないの。あなた一人を。だけど、私はやっぱり、彼が好きだから。どうしたらいいかわからなくて。怒ったって、責めたって、私は彼と一緒に居るって選択肢以外ないのよ。離れられるほど、嫌いになんてなれないし、そんなに強くないの。」



「ねえ、あなたは彼とどうなりたかったの?」


絵里さんは泣いていた。


私ばっかり苦しいと思っていた。彼が明け方帰る後ろ姿を見る度に、絵里さんを羨ましいと思っていた。憎いと思ったことさえあった。仕事終わりにご飯を食べに行って、そのまま私の家に泊まって、絵里さんに嘘の連絡を入れる彼を見て、正直、勝ったなって思ったこともあった。彼を野放しにする絵里さんが悪いと思っていた。私の方が彼を幸せにできると思っていた。


私はなんてバカだったんだろう。彼は絵里さんの旦那さんなんだ。彼と絵里さんは家族なんだ。私の入る隙は、本当は無いんだ。勝ち負けなんてないんだ。彼は絵里さんを幸せにしなきゃならないんだ。

私はこれで終わりにできる。でも絵里さんは違うんだ。絵里さんには、彼しかいないのに。

「彼と楽しくずっと過ごせたらいいなって思ってました。」

もし私の立場が第三者だったとしたら、私の肩は持たない。



友達はみんな励ましてくれた。頑張れって言ってくれた。私ばっかり辛いんだと思ってた。


一番辛いのは絵里さんだ。

何にも悪くない、絵里さんだ。